第3回ろうセクシュアルマイノリティ全国大会分科会レポート

第1分科会「トランスジェンダーのためのワークショップ」座長:たけみ・ふゆみ

 

「トランスジェンダー」とは何か?という話からスタート。

この言葉はLGBTが使われているわりには知られていないという現状がある。ジェンダーブレッドいう図を使って、性自認・性的指向など、性を構成するパラメーターについて説明し、参加者と共有しあった。

次にトランスジェンダーの歴史について。「トランス」という言葉が最初に出たのは、トランスセクシュアル(性同一性障害の系統の言葉)・トランスベスタイト(異性装などという意味)という言葉からだということ、ドイツのマグヌスフィシェルト(1868-1935)という性科学者が作った言葉だということを説明。

トランスジェンダーについて、ジェンダーブレッドで示されているように、単純にトランスで女性に、男性に、というふうに二分化できない。たとえば、日本におけるXジェンダーは、海外では細かくジェンダークイアなど、様々な言葉が生まれている。自分をあらわす言葉がなくても、バリエーションが多いので、新しい言葉ができてくようになっている。これをトランスジェンダーアンブレラといい、この傘の下に様々な人がいることを示している。日本で実際に使われている(広まっている)アイデンティティがFTM、MTF、FTX、MTXと狭義的なのに対し、それ以外の多様なアイデンティティがあることがわかる。そして、「ろう者」として「トランスジェンダー」として二重、三重の抑圧構造があるということを共有しあった。

 

たとえば、就労や差別、健康などの問題がある。

あるトランスジェンダーFTMの体験。ある日、ラーメン屋で急性低血圧症を起こし、救急車を呼んだが、手話通訳者を呼ばないと病院に運べないという。そして、手話通訳者にきてもらって、運ぼうとしたらFTMであることで受け入れ先の病院が見つからないという。1時間ほど電話交渉してようやく見つかった病院が倒れたところから1時間のところにあった。「ろう」「FTM」ということへの抑圧が同時に交差したと実感。命に関わることでもあるので、前もって受け入れ先の病院の情報、手話通訳者をお願いできる人のリストを作るなどの工夫が必要ではないかという意見がたくさんあった。

 

アメリカやカナダのろうトランスジェンダーの人たちのインタビュー動画を紹介した。日本は世界がダイナミックに動いていることをしらない。海外で活動しているろうトランスを講師として日本に来てもらってお話を聞きたいという声が多数。トランスジェンダーという大きなカテゴリーで「ろうトランス」の人権を擁護できるよう、私たちができることは何かということを話し合うことができた。

第2分科会「LGBTQ、手話通訳者に必要なスキルって?」座長:くに・マル

目的:LGBTQ関連の研修会や講演会での手話通訳スキルについて、どのような開発・支援が必要なのか?LGBTQ手話通訳者ネットワークづくりを進めるために考える。

内容:幅広いテーマなので、手話通訳者の課題と、LGBTQろう者のニーズの話に絞る。

●事例1(プレ)※全員

 

「研修会等で、通訳者が差別的な手話を表現。あなたならどうする?」

 

通訳者が誤った手話を表現したとき指摘をするかどうか?について、大半の意見は「指摘する」となった。ろう者が正しい手話表現を伝えていくことは当たり前、そう思う人がほとんどだ。

しかし、LGBTQ当事者にとってはそこに「カミングアウト」が伴う可能性があるため躊躇してしまう。クローゼットの人にとっては、まさに覚悟をもっての指摘になるだろう。

 

LGBTQへの誤解や偏見、専門知識を持った通訳者育成の必要性など、シンプルだが多くの課題が見えた事例となった。

 

●事例2 (グループセッション)

 

「当事者の通訳者を育てるには?そもそも当事者の通訳者は必要?なぜ?」

 

○通訳技術について

*実際にあった話。

LGBTQ関連の講演会で講師が遠藤まめ太さん(FTM)で、通訳者が「遠藤まめ太/女」と表現した。

その後通訳者も気になっていたようで、終わったあと、ろうゲイの所へ来て、どう表現したほうがよかったのか?「/男/   或いは、人差し指で、その人を表したほうがいいのか?」と相談。

→事前確認不足、アウティング行為

*LGBTQ関連の場面でどのような手話通訳が必要になるのか?

 

○当事者の手話通訳者について

*自分はゲイなのに、トランスの通訳をしてよいかどうか。(LGBTQは一括りされてしまいがち)

*LBTQの手話通訳者にはゲイが多いが、なぜ他のセクシュアリティの通訳者が育たないのか?

*イベントなどでLGBTQ手話通訳者が通訳をする必要があるのはなぜ?

*ストレート手話通訳者でも問題ないのに?

*当事者の通訳者の数より、異性愛の通訳者の数が多いため、勉強会など開く必要がある。

*LGBTQ関連の場面でストレートの手話通訳者が来て困ること、LGBTQの手話通訳者が来て困ることは?

 

LGBTQ通訳者の必要性については、必要との結論に至った。前提として通訳技術は重要だが、同じ悩みを持っているため気持ちを理解しやすい、基礎知識の教育が不要などの意見が出た。

LGBTQパレードやイベント(ゲイオンリー、レズビアンオンリーなど)では、場の雰囲気に合った通訳者がよいといった通訳技術以外も大切とする意見も目立った。

また、アメリカではLGBTQプライドパレードの他にトランスジェンダーのためのパレード、レズビアンのためのパレードもあるため、トランスジェンダーやレズビアンの通訳者をつけてほしいという要望が上がっているそうだ。肌の色についても同様。(トランス×黒人など)

しかし、LGBTQ通訳者は数が少ないため、もっとALLY通訳者を増やすことを考えるほうが現実的であり、その為には通訳者育成を行うろうLGBTQの数がもっと必要だという課題も見えた。

 

東京や大阪、名古屋には当事者の通訳者はいるが、地方にはほとんどいないため、今大会をきっかけに増やしたいと前向きな意見もあった。

第3分科会「ろうLGBTQとして長期的な関係をつくるとは。さまざまなカップルを例に

座長:マエ・モン

1.自己紹介

  一人一人簡単な自己紹介。

 (紹介内容)ニックネーム・性自認・性的指向・住んでる所

  所感:性自認シスジェンダー、性的指向トランスorパンの方が割合多かった。

     また住んでる所ではなく出身地を紹介してくださった方も何人かいて、四国地方

出身の方が多く、同郷出身者同士で親近感を感じ、分科会終了後に個人的に話を

され仲を深めた方もいたそうです。

 

2.アイスブレイク

  緊張をほぐすためもうひとつの自己紹介ゲームを行う。

 (紹介内容)「私、実は…〇〇フェチです」・「生まれ変わったら何になりたい?」

  所感:意外や意外、フェチ回答でかなり盛り上がった。

     はじめに回答した人が次の人を指名して回答していくという進行方法。

     フェチ回答)髪が綺麗で長い女性、眼鏡がかけてる人、手指のラインが好き、

           自分の好きな人の体臭、男性の骨盤、乳房の形、引き締まった筋肉、

           筋肉を通して見える血管、男性器の形、大きさ、精液の味…etc

 

3.ディスカッション

~好きな人とどうしていきたい?~

普通の男女カップルまた夫婦と同じような生き方・考え方にしないというのが多かった。

  ・生活面ではお互い家事や自炊したり協力しあう意見が多かった。

  ・元カップルで別れた後も同居している形、国際恋愛で文化の違いでも愛は変わらない、

  年の差でも聴者とろう者でも普通と変わらないなど様々な考え・意見があった。

  ・国際恋愛では、喧嘩になったら普通のカップルと同じようにすぐ仲直りするものじゃない

ところが苦しい。

・聴者とろう者との恋愛の最大な悩みは、環境の違いやコミュニケーション。

相方に自分の友達を紹介や一緒に集まって遊ぶときにひとつひとつ通訳してあげるのが

しんどい。相方のことを気遣いしてばかりで自分が楽しめない。と喧嘩になることが多くて

どうしたらいい?と悩みをその場を借りて、みんなからアドバイスが欲しいと要望があった。

結果、相方と前もってお互いどう思っているか、ちゃんと話し合う必要ある、相方を連れて

いかない、前もって通訳が出来ないかもしれないことを事前に理解していただく、など色々な

アドバイスを頂いた。

 

 

~働いてる中で何が必要か?~

「職場でカミングアウトする必要ある?ない?」

 ・職場に友人(ゲイ)がいた。カミングアウトせずとも自然と周囲も感づいた。

 ・外資系企業に勤めている。LGBTQにかなりオープン。ダイバーシティ研修、

  委員会等も組織にあったため環境が良かった。

 ・手話関係の会社に勤めている。なんとなく流れでわざわざカミングアウトしなくとも

OKだったと思う。

   ・周りからの偏見が怖いから言わずに黙っている。

   ・ろう+ゲイでの見方がしんどかった。ゲイ社会への行き来も控えた時期がある。

    次の新しい職場ではすぐにカミングアウトして気持ちが楽になった。

   ・ゲイって何?と聞かれたときに説明できる力が自分にはない。

    ゲイ=自分と偏った目で見られるのが怖いからカミングアウトしていない。

   ・職場ではないが身内で弟からゲイとカミングアウトされた。自分もビアンだがもし自分もカミングアウトしたら弟は自分のせいと思うのでは…。

   ・仕事上で引っ越しするたびに、引っ越し代を会社に請求できるが、1人分ではなく、

    相方分も含めて2人分で請求している。そのため上司が気づいて、聞かれたため、

    パートナーと暮らしていることを伝えた。その後は特に何も言われなかったので、

    暗黙の了解で理解してくれているのかな?と思う。

 

「職場環境、福利厚生などに不満はある?」

   ・転勤がかなり多く、そのたびに上司が変わる。家族や結婚観などの聞かれなくなって、

    ある意味少しほっとしている。

   ・本名が嫌で通称名に変更したいが職場では認められないことが多い。

   ・制服が女性らしいスカートで嫌だった。自由に選べる服を着たい。

   ・トイレが男女と決まっている職場が多い。オールジェンダートイレを早く一般企業にも普及させてほしい。

 

<座長としての感想>

 

まえ:初の試みということでかなりのプレッシャーがかかったが、蓋を開けてみると様々な意見交換ができてとても充実した内容だった。

「ろうLGBTQとして長期的な関係で生きるということ」のテーマに対して明確な結論は出せなかったが、当事者それぞれが思い思いを語り合えたことは良かったのではないかと思う。

 

もん:「愛には、多様なかたちがあっていい。愛のかたちにきまりはない。」その言葉のように、様々な愛し方や考え、意見など交換でみんなも自分も一緒に考えたり、学べる貴重な時間でした。私たちにも、「LGBTQ」という言葉で特別扱いされることのない社会にしたい思いがあるので、この場を作る時間を次大会にもこれからも継続してほしいと思っている。また自己紹介の重要性があると改めて実感した。夜の親睦会や2日目も、参加者同士で仲良くなった光景があちこち見れて私も嬉しかった。

第4分科会「性自認・性的指向に関する経験を共有しよう」座長:まさき・モス

 

 

分科会4では主にアメリカと日本を比較し、セクシュアリティにかかわる「自己紹介の仕方」や「分類の方法(語彙や着眼点)」の違いについて理解を深め、LGBTQ当事者、非当事者かかわらず、自分の性自認と性的指向(SOGI)について考える機会をもつことを目的としました。

 

 

 具体的には、1、日本ではFTMやMTFなど性自認のみで表現されがちな自己表現は、アメリカでは性自認と性的指向をそれぞれ両方説明するということ。2、アメリカで使われているセクシュアリティの語彙(カテゴライズ)は、日本におけるXジェンダーがより細かく分類されているということ。3、日本で流用されている「男女をグラデーションにした4つの性の指標」や「身体、心、指向における男女の組織図」は、<男でなければ(男から離れれば)女である>という様に、男女二元論を前提にした構造となる問題をはらんでいることなどを指摘し、当事者の事例などを用いて具体的に説明しました。加えて、アメリカで主に使われているセクシュアリティの捉え方として、「指向」を「恋愛」と「リビドー(性的欲望)」に切り分けること、そして、男でなければ女というような二項対立ではなく、男の要素と女の要素をそれぞれ独立した割合で表現することができるワークシートを配り、実際に参加者に自己のセクシュアリティをシートに記入してもらいました。

 

参加者はアメリカの方法にそって自己のセクシュアリティを捉えることが初めての経験であり、SOGIに関する揺らぎや、従来、日本で用いられている指標では認識できなかった“自己のセクシュアリティのあり方”を再認識することができ、分科会としての目標は大いに達成できました。分科会の最後には質疑応答とディスカッションを行いました。

質疑応答では、カテゴライズの確認やホモなどの差別用語の成立過程、当事者と非当事者の違いについての質問などがありました。

ディスカッションでは、SOGIを含めた自己紹介を交え、セクシュアリティを理由とする日ごろの悩み、自分がセクシュアルマイノリティだと自覚したきっかけなどを話し合い、シェアしました。

参加者からは、「アメリカと日本の違いの紹介があり分かりやすかった」「SOGIの概念などを深く知れてよかった」「普段意識しないことを考えることができた」などの意見があり、有意義な分科会となりました。

ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。